--
--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2016
04.06

[4/6] 冒険者のお仕事【承その2】

Category: 小話
【承その1】の続きです。
 

---

 やがて、エンリッジの作業が完了し、すなわちエンリッジ特製スペシャルドリンクが完成した。摘んできた雑草の葉っぱに水を加えてすり潰して色々やって、無色透明無味無臭の謎の液体が出来たところで、ビーカーに、赤ワインと液体を九対一の割合で注いで良く混ぜて、再び赤ワインの大瓶に戻して、コルク栓で栓をして、めでたく完成となったのだった。
 そうこうしているうちに、すっかり日は暮れて、あたりは闇に包まれて。森の上空を流れる雲が白く、闇色の空に浮かび上がる。雲が流れ去ってしまった後、天上に現れた月の姿は、完全な円形で、周囲をさらに明るく照らし出した。今が夜であることが信じられないくらいの明るさ。
 月の光に照らし出されながら、サイナス、エンリッジ、フィルの三人は、低木の茂みの後ろに身を隠していた。三人は息を潜めて、『むささび』という名のバンガローを視界に入れつつ、周囲の様子を窺《うかが》っていた。
 サイナスは愛用の両手斧《バトルアクス》を右手で握りしめ、さらに傍らの手を伸ばせば届く位置に、フィルの愛用の戦槍《スピア》も用意していた。エンリッジはピストル型の麻酔銃に、普通の弾丸をこめて持ってきていた。
 フィルは……少し前に、サイナスとエンリッジによってたかって女装させられてしまっていた。サイナスのこだわりの、紺色のブレザーに、赤黒チェックのプリーツスカート、黒のハイソックス&ローファー。サイナス曰く、テーマは「スタンダード元気プレッピー」とのことだったが、フィルにとっては心底どうでも良かった。
「フィル、いけるぞ! 案外似合ってる!」
 エンリッジは目を輝かせて絶賛(?)してくれたが、やっぱりフィルは納得できなくて、サイナスに問いただした。
「なあ……。この作戦って、要は魔物にエンリッジ特製ドリンクを飲ませるのが目的なんだよな……? なんで俺が女装、ってかこれ思い切り女子高生の格好だよな?――をしなくちゃなんねーんだ!」
「うん、それはあれだ、フィル。酔っぱらいは女子高生が好きなんだ!」
「酔っぱらいが、じゃなくて『サイナスが』好きなだけだろ! その格好を友人にさせるとか信じらんねえ!」
「違う! 俺は仕事に私情を持ち込まない! 念には念を、だ。どういうシチュエーションで魔物たちが一番油断するかを突き詰めたらこうなったんだ!」
「真顔でもっともらしいこと言ってるけど、ほんとは面白がってるだけだろ!」
「そんなことはない! ――あ、エンリッジ、スマホ持ってきてたっけ? 今だ! フィルを激写だ!」
「言動が矛盾しまくりだろーーー?!」
 三人でひととおり大騒ぎして、何枚か写真も撮られて……フィルは疲れて、とにかくとっととお仕事を終わらせて帰ろうという境地に達してしまった。とりあえず、作戦自体は理に叶っているような気がしたので、大人しくサイナスの指示に従うことにしたのだった。
「……お?」
 エンリッジが小さく呟いた。え?とフィルが聞き返そうとすると、シッ、とサイナスも黙るように、と目配せしてきた。フィルは口をつぐんで、耳を澄ませてみた。遠くから、かすかに聞こえてくる……歌声? だんだんこちらに近付いてくる。
「しっあわっせ わ~ あっるいって こない♪」
「だ~から あっるいって くるんだね~♪」
「のまのま いぇい♪ のまのま のまいぇい♪」
「え~え ゆ~だ~った な~アハハン♪」
 やがて、歌(かなりの大声で歌われている歌)が、はっきりと聞こえるようになってきた。複数の歌詞、複数のメロディ……それぞれが、好き勝手に好きな歌を歌っているようだった。
 おそらく温泉帰りなのだろう。ホカホカで上機嫌な『テナガケンエン』の集団が、『むささび』という名のバンガローを目指して行進していた。一行は、裸足の足で地面の土をさくさくと踏みしめて、しっかり二足歩行で歩いている。
 先頭を行くケンエンが手提げランプを掲げ、最後尾のほうからも灯りが見え、ケンエン達の集団を全体的に照らし出していた。ランプの明かりに照らし出された魔物たちの姿は、サイナスが事前に情報を得ていたとおりの姿だった。
 身長はおそらく二メートルを超えている。明らかにサイナスが見上げるくらいの大きさ。二足歩行。頭部は犬の形をしていて、耳が垂れており、それぞれが頭に豆絞りの手ぬぐいを折りたたんで乗せていた。ホカホカと湯気が立ち上り、まさに風呂あがりといった感じだった。
「いち、にい、さん……」
 フィルは小声でテナガケンエンたちの数を数えてみた。なるべく少ないと良いなと祈りながら。
「……なな、はち、九、十……嘘だろ……」
「けっこうな数だなあ」
 エンリッジが呟き、サイナスはチッと舌打ちした。
「あんなでけえの、一人あたりノルマ三匹以上かよ……めんどくせえ」
「ちょ、そのノルマ、俺も入れて割り算してないか? 俺はノーカウントだ。か弱い女子高生に危険なことさせる気か!」
 慌ててフィルは主張した。
「フィル……ついに認めたな」
「っていうか。そもそも今回の作戦って『戦わずして勝つ』作戦じゃなかったっけ。ノルマも何も」
「おっとそうだった。いつものお仕事の感覚でつい」
「まあ、上手くいけば戦う必要はないだろうけど、しびれ薬を飲ませたヤツらを『処理』したり『後始末』したりするノルマは発生するかもな」
「しょり……」
「あとしまつ……」
 エンリッジの発言に、フィルとサイナスは顔を見合わせた。
「……。じょ、女子高生にそういうのはやらせないよなあ?」
「エンリッジ聞いたか? 今夜はフィルの女子高生アピールが激しいな」
「! フィル……。今まで気が付かなくて悪かった。もしかして、……誘ってるのか?」
「誰が誰をだーーー!」
 フィルは小声ながらも精一杯の突っ込みを入れるのだった。

 *

 ケンエンたちの集団が全員バンガローの中に入り、ばたん、と扉が閉まり。やがて、ワイワイガヤガヤどんちゃん騒ぎが始まった。バンガローの中からは、ひゃっほー、とか、ウッキー、とか、テンションの高い奇声が何度も聞こえてきた。何が楽しいのか良くわからないのだが、良いのか悪いのか大いに盛り上がっているようだった。
「確かにこりゃあ近所迷惑だな……」
 と、思わずサイナスが呟くほどの、ひどい盛り上がりようだった。
 しばらく待っていると、酒が回ってきたのか、大騒ぎが一段落……つく気配は一向に訪れない。バンガローの中では誰かと誰かのデュエットが始まってしまい、手拍子と合いの手が下手くそな歌を盛り上げ始めた。
「えーい。フィル、もう行ってまえー! 突入だ!」
 しびれを切らしたサイナスがフィルを突っついた。
「えっ。この盛り上がりの中に突入するのか?」
「盛り上がってるほうが都合が良いだろ? 下手にみんな醒めて冷静になってるところに入っていくより」
 言いながらサイナスは、デパートのロゴ入り紙袋の中から、ガサゴソと大きな円いお盆を取り出した。
「そりゃあそうだが……」
「フィル頑張れよ! 期待してるからな!」
「エンリッジその構えているスマホは何なんだ!」
「そりゃあ撮りたてほやほやのフィルの勇姿を写メ……」
「…………」
 フィルは無言でエンリッジのスマホをひったくった。
「あー。その端末けっこう高いんだぞ!」
「ほらほらコントはそのくらいにしてー。ハイお仕事お仕事」
 サイナスは笑顔でお盆をフィルに差し出した。円いお盆の上には、赤ワインの大瓶と五つのコップが載っていた。
「だっれの所為でお仕事がコントになったと思ってるんだよったくもう……」
 フィルはため息をつきながら、赤ワインの大瓶を倒さないように慎重にお盆を受け取った。ワイン瓶の中身は、赤ワイン九割、謎の液体一割の、エンリッジスペシャルドリンクという名の遅効性しびれ薬だ。
「フィル。わかっているとは思うけど、どんなに喉が乾いてもそのワインには口をつけるなよ」
 エンリッジがいつになく真剣な表情になって、フィルに釘を差した。
「あ、うん。わかってる」
「まあフィルなら、間違って飲んだら飲んだでそれはそれで美味しいか」
「サイナス……聞こえてるぞ」
「うっ、ゲフンゲフン、フィル、身体を張って笑いを取りに行かなくても大丈夫だからな。その液体飲んだらマジでヤバイことになるからな、多分」
「身体を張って笑い……って、サイナス……」
 フィルは思わず自分の姿――女子高生に扮している自分の姿を改めて見下ろしてしまった。月明かりが明るいのと目が慣れてきてしまったので、自分がどんな格好をしているのか改めて思い知らされることになった。
(こ、これはお仕事なんだ……お仕事お仕事……)
 フィルは自分に言い聞かせ、いつまでもこんなところでグダグダしていても埒が明かないと思い、
「はあ、行ってくるか……」
 と、ため息と共に呟いた。
「おー。頼んだぞー」
「フィルはやるときゃやるからな。首を洗って、じゃなかった、大船に乗った気分で待ってるぜー」
 エンリッジとサイナスの励ましの言葉を聞きながら、フィルは渋々、バンガローへ向けて第一歩を踏み出すのだった。
関連記事
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。