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2016
04.06

[4/6] 冒険者のお仕事【転その1】

Category: 小話
 何度も再構成失礼します<(_ _)>
 なんだかんだで、起承転結の四部構成になりました(区切りは適当)
 ブログの記事の分量の関係で、「承」「転」は、その1、その2に分割しております。
 「起」も まあまあ長いですが、分割せずにアップしてしまっているので このままでいいや。

 お察しのとおり、当初の予定の2倍以上に膨らみました…。案の定というか。
 今回新しくアップした部分は、承その2(この記事のひとつ前記事)以降です。
 というわけで、先に [こちら] から お読みいただけますと幸いです。

 進捗は、本文:転2まで。下書き:結の途中。
 この小話、気持ち的には、ほぼ完結しております。なるべく速やかに最後までアップできるように頑張ります。
 

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 バンガロー『むささび』の前。
 コンコン。
 フィルは、左手でお盆を落とさないように支えながら、右手で木製の扉をノックした。バンガローの中からは、ひどいどんちゃん騒ぎの騒音が聞こえてきていて、こんなノックの音なんか聞こえていないのではないかと思いつつ。
「あの、おじゃましますぅ」
 フィルは頑張って裏声を使って呼びかけ……でも中のヤツらは既に出来上がっているだろうし、そもそもケンエンたちに言葉が通じるのか、と思い、返事を待たずに思い切って扉を開けてみることにした。
 扉を開けると、バンガローの中から明るい光が目に飛び込んできた。そして、ビールの苦いような香り。部屋の中央の大きなテーブルの上には、ビールやカクテルのアルミ缶がたくさん立ち並んでいて、おつまみの柿のタネやポテチの大袋も開けられていた。
 二匹のテナガケンエンが、部屋の一番奥で、脚立二台をお立ち台にして立っていた。肩を組んで揺れながら、気持ち良さそうに、大声を出して何かの歌を歌っている。二匹のケンエンの頭の上には、水色と桃色の折りたたんだ手拭いが乗っかっていた。
 残りの八匹のケンエンたちは、テーブルを囲んで胡座《あぐら》をかいて座り、お立ち台の上の二匹の方向を見つめていた。それぞれ、手拍子を打ったり、タンバリンを叩いたり、マラカスを振ったり、ペンライトを振ったりして騒いでいる。やっぱりみんなの頭の上には、色とりどりの折りたたんだ手拭いが乗っていた。八匹とも、入口付近に立つフィルには完全に背を向けている。
(あ、これ、完全に俺の声聞こえてないな……)
 とフィルが思っていると、八匹のうちの一匹、入口の扉に一番近いケンエンだけが、くるりと振り返った。
(ひっ)
 フィルは思わず息を呑んだ。十匹のケンエンの中で、一番ごつくてでかい、おそらくリーダー格のやつだった。頭の上には、橙《だいだい》色の豆絞りの手拭いが乗っている。そいつの右目の上には大きなキズが走っており、右目は閉じていて見えていないようだった。そいつは、胡座《あぐら》をかいた姿勢のまま、顔だけをこちらに向けて、左目で、ギロリと、キツい視線でフィルを見上げてきた。
(ひぃー)
「…………」
 そいつはフィルを見つめながら、声もなく、ゆっくりとした動作で立ち上がった。フィルはそいつに見下ろされる格好になる。明るいところで、至近距離で見ると、そのガタイにちょっと圧倒されてしまう。
(こっこええ)
 フィルが見上げたまま固まっていると、
「あらあ~」
 そのごつくてでかいケンエンが、ガタイに似合わない可愛らしい声を発した。
(?!)
「あらあら、いらっしゃぁい。どうしたのぉ、何しに来たのん? 道にでも迷ったのぉ~?」
(あ、あれ? なんか普通に言葉が通じるぞ?)
 流暢な人語(というかオネエ言葉)で話しかけてくるコワイ見た目のケンエンに動揺しつつ、フィルは何とか言葉を返す。
「あ、あっ、えっと……ですね。これ、美味しい赤ワインをお持ちしましたぁ♪ キャンプ場のご主人からの差し入れですぅ」
 フィルは自分の台詞に気持ち悪くなりながらも、引きつった笑みを浮かべながら、赤ワインの大瓶とコップの載ったお盆を掲げてみせた。
「あらぁ、良いのぉ? ありがとぅ~気が利くわねぇ。じゃあ~、遠慮なくぅ~」
 オネエなケンエンは、可愛らしい笑みを浮かべながら、フィルが差し出したお盆を受け取ってくれた。
「い、いえいぇ~、喜んでもらえて良かったですぅ。ではでは、おれ……じゃなかったアタシはこれで……」
 フィルは良し!一仕事終えた!とばかり、そそくさと立ち去ろうとした。が、オネエなケンエンが「待って~ん」とフィルを引き止めた。
「あらぁ、もう帰っちゃうのん? せっかくだからお酌してってよ~ん」
「え、え、お酌?」
 フィルは焦った。実はフィルは、事前にサイナスとエンリッジから、「酔っぱらいは女子高生が好きだから(サイナスの主張)お酌してやって確実に飲ませろ!」と言われていたのだった。フィルは「なんで俺がそこまでやらなくちゃなんないんだ! 赤ワインの大瓶置いてってやれば勝手に飲むだろ! 女子高生がセクハラされたり危険な目に遭ったらどうすんだ!」と主張して、何とかお酌だけは勘弁してもらったのだった。フィルがサイナスに「お前、俺がリネちゃんだったとしてもお酌までやらせる気か?」と言ってやったら、流石のサイナスも黙った。
「えーっと、お酌は……」
「あらぁ、遠慮しなくても良いのよ~ん。せっかくの美味しそうなワインですもの、差しつ差されつ、一緒に飲みましょうよ~ん」
「え! 一緒に?!」
 フィルはますます焦った。ワインの大瓶の中身は美味しい赤ワインではない。安物の赤ワイン九割、謎の液体一割の、エンリッジスペシャルドリンク(という名の遅効性しびれ薬)だ。当然、エンリッジから「絶対飲むなよ」と釘を差されている。
「あっ、おれ、急に用事を思い出しまして……」
「良いじゃないのぉ、ちょっとくらいぃ~ん」
「ええと、実はついさっき、赤ワインはたくさん飲んじゃいまして、お腹いっぱいで……」
「一口くらい良いじゃな~い。……それとも。アタシの注《つ》ぐワインは飲めないってのかしらぁ~ん?」
「いえいえけしてそういうわけでは」
「それとも。……『このワイン』は、飲めないってのかしらぁ~ん……?」
「…………」
(あれ。これやばいパターンじゃね? 俺終わったかも……)
 オネエなケンエンは、相変わらず笑みを浮かべながら、ニコニコとフィルを見つめている。フィルは背中に冷や汗をダラダラかきながら、目を逸らしたいのだが、逸らせない。この硬直状態がいつまで続くのか……とフィルが絶望的な気分で思っていると。

 *

 がっしゃーーーん。
 何か、ガラス瓶か何かが割れて砕け散ったような音。
「「?!」」
 低木の茂みの陰から、バンガロー『むささび』の様子を窺《うかが》っていたサイナスとエンリッジは、はっとして顔を見合わせた。
「オイ、今の音……」
「派手に割れた音がしたな。何が割れたんだろう」
「ワイン瓶? ガラスのコップ? 窓ガラス? ……何にしたってこれはちょっと何か嫌な予感がするぞ……」
「フィルが何かやらかしたかな」
「……エンリッジって意外と肝据わってるよなあ」
 サイナスは直感的にフィルのピンチを感じ取ってしまったのだったが、エンリッジの口調はいつも通り落ち着いていた。
 そして、次の瞬間。
「うわあああーーー! ごめんなさい!」
 まぎれもなく、フィルの叫び声だった。バンガローの中から聞こえてきた。それを聞いた瞬間、サイナスの身体は勝手に動いていた。右手で自分の両手斧を握りしめ、左手でフィルの戦槍を引っ掴み、バンガロー目指して猛然と駆けた。
「あ、サイナス」
 一呼吸遅れて、エンリッジもサイナスに続いた。右手にはピストル型の小型麻酔銃。完全に戦闘モードな男二人で、バンガローの扉を開けて中になだれ込んだ。当初の作戦はどこへやらだった。
「フィル!」
「無事か?」
 サイナスとエンリッジは口々に叫んだ。
 バンガローの中では、女子高生の制服姿のフィルが正座させられていた。
 フィルの正面には、身長二メートルほどの、ごつくてでかい、おそらくリーダー格の、隻眼のテナガケンエンが仁王立ちになってフィルを見下ろしていた。そいつの頭の上には、橙《だいだい》色の豆絞りの手拭いが乗っていた。
 床の上には、割れた赤ワインの大瓶のガラスの破片があちこちに飛び散っていて、赤い液体が、床の上に大きな水たまりを作っていた。お盆とガラスのコップは無事で、部屋の中央のテーブルに普通に置かれていた。
 そして、隻眼のテナガケンエンと、正座している女子高生を、九匹のケンエンたちが微妙に遠巻きに取り囲んでいた。おそらく、隻眼のヤツの子分たちなのだろう。それぞれの頭の上には、色とりどりの豆絞りの手拭いが乗っている。
 リーダー格の、ごつい隻眼のケンエンが、突然乱入してきたサイナスとエンリッジに気付き、言葉を発した。
「ちょっとぉ~今度は何なのよう。今夜は先客万来ねっ」
「……っ」
 女子高生なフィルを中心としたシュールな光景、そして、ごついケンエンのオネエ言葉がトドメだった。サイナスは不謹慎にも吹き出しかけてしまい、何とか歪む表情を引き締めつつ叫んだ。
「てめー! ちょっとそこの図体でけぇてめー! このやろうフィルに何しやがった! フィルのやつ可哀想に涙目で震えてるじゃねーか!」
「だっ、誰が涙目で震えてるってんだ!」
 フィルは慌てて威勢良く突っ込みを入れた。
「どっちかというと震えてるのはサイナスのほうだよな。あ、武者震いってやつか?」
 背後からエンリッジののん気な声が聞こえてきたので、サイナスは振り返ってエンリッジの片足を思い切り踏んづけてやった。そして、エンリッジに対して小声で主張した。
(ばかやろー察しろよ! この状況! こっちだって必死なんだ! 笑いこらえるのに!)
(なるほど確かに)
 サイナスは気を取り直して振り返ると、真面目な表情でごつい隻眼のケンエンを見上げた。左手で握りしめていたフィルの戦槍を床にポイすると、改めて自分の両手斧《アクス》を両手でしっかりと握りしめて構えた。
「てゆうか……赤ワイン! せっかくの差し入れの赤ワインを! こんなに床にこぼして! もったいねー!」
「あらぁ~、だ~ってその赤ワイン……」
 隻眼のケンエンは、床の赤い水たまりに視線をやり、ふう~、と残念そうにため息をついた。
「今ねっ、その赤ワインのことで、ちょ~っとお説教しなきゃならないわねって思ってたところなのん」
「は? 説教?」
「あなた達お二人も、そこのお嬢さんとグルなのかしらん? ちょ~っとそこに正座してもらおうかしらぁ~ん」
「正座……って誰が正座なんか! ……ってエンリッジ、なに素直に正座してんだよ!」
 サイナスは振り返ってうあああ突っ込みが追いつかねーと頭を抱えた。
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