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2016
05.05

[5/5] 冒険者のお仕事【結】

Category: 小話
 これにて完結です。
 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。<(_ _)>
 
 第1話からお読みになる場合は、[こちら] からお願いします。
 

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 いつの間にか、あたりは明るくなっていて、フィルはハッとして目を覚ました。
 テーブルに突っ伏して眠っていたようだった。枕にしていた両腕と、額《ひたい》が、じんじんと痺れていて、頭が重くて痛い。全身が固まってしまって痛い。フィルは座ったまま、大きく延びをした。
 小屋――バンガロー『むささび』の外は、すっかり明るくなっていて、小屋の外からは小鳥たちのさえずりが聞こえてきた。
 フィルは小屋の中を見回した。サイナスが床の上で大の字になって豪快に熟睡していた。エンリッジはサイナスの足元で、犬か猫のように丸まってすやすやと熟睡していた。
 フィルは少し違和感を感じた――。小屋の中には、自分たち三人の他には、誰も見当たらない。昨夜は確か、小屋の中はどうしようもないくらいぐっちゃぐっちゃになっていたはずなのだが、今は、きれいに片付けられている。
(あれ……? 昨夜、なんやかんやあったと思ってたが。夢だったのか……?)
 フィルは何気なく自分の姿を確認した。お気に入りのTシャツにジーンズ姿だった。
(あ……。そういや昨夜、あまりに恥ずかしかったから、こっそりバンガローを抜け出して、外の茂みの暗がりで着替えたんだっけ)
 少しずつ、昨夜の記憶がよみがえってきた。ふと、小屋の出口の扉のほうを見ると、色とりどりの手拭いや風呂敷で包まれた荷物が並べてあった。
「ちゃーんちゃーかちゃーんちゃららーんちゃ♪」
「ちゃーんちゃーかちゃーん♪」
 突然、小屋の外から、ラジオ体操第一を歌うケンエンたちの歌声が聞こえてきた。
「っ?!」
 フィルは慌てて、眠っているサイナスとエンリッジを起こしにかかった。
「うおーい、起きろーサイナス! エンリ! 大変だ! もうラジオ体操が始まっちまってるぞ!」
「なにぃ?!」
 フィルの切羽詰まった叫び声を聞いて、サイナスが慌てて飛び起きた。
 エンリッジも目を覚まして、大きく延びをしながら上半身を起こした。へらっと笑いながら、
「なあーに寝ぼけてるんだよーフィルー」
「だってスタンプが! 遅刻したら押してもらえなくなるぞ!」
 そうこうしているうちに、ラジオ体操第一の音楽は終わってしまった。そして、小屋の扉がバタンと開けられ、朝の新鮮な空気が流れ込んできた。
「あら。おっはよ~ん。やーっと起きたのねん。ねぼすけさん☆」
 ケンエンたちの群れのリーダー格の、ガタイのデカい、オネエケンエンだった。フィルは、やっぱり、昨夜のあれこれ(自分の女装も含む)は夢ではなかったのか……と、微笑みながら息を吐いた。

 *

 バンガロー『むささび』の外。
 フィル、サイナス、エンリッジの三人は、何の因果か、旅立つ(?)テナガケンエンの群れを、見送る格好になっていた。
「昨夜は、ほんっと、ごめんなさいね~ん♪」
 軽いノリだが、リーダー格のオネエケンエンは、自分たちが悪かったと理解してくれたようで、謝罪の言葉を述べてくれた。
「お兄さんたちにアツーク怒られて、アタシたち、ようやく目が覚めたわ~ん☆」
(? そうだっけ? あんま覚えてない……)
(そういやサイナスが何か熱く語っていたような。その頃から俺たち飲み始めちゃってたからなー)
 サイナスを先頭に立たせ、一歩下がって控えめな位置に立ったフィルとエンリッジは、サイナスの背後でヒソヒソと言葉を交わしていた。
「アタシたち、反省して引き上げることにしたの~ん。だから、現行犯逮捕だけは勘弁してね~ん」
 オネエと九匹のケンエンたちは、それぞれ、手拭いや風呂敷に包まれた大荷物を背に担いでいた。
(現行犯逮捕……?)
(住居不法侵入罪……とかなんとかサイナスが言い出したんだっけ?)
 フィルとエンリッジは顔を見合わせて首を傾げた。
「はっはっは。いやいや、わかればいーんだ。俺の心は海のように広いからな。今回だけ、特別に、見逃してやる。ただし、次はないからな……?」
 サイナスは上から目線で、無駄に偉そうに、腕組みをしてうんうんと頷《うなず》きながら言った。
「わかったわ。見逃してくれてありがとぉーんねん、お兄さん」
 オネエケンエンは嬉しそうに言って、笑みを浮かべた。
「今後はねん、山の中の奥深ーくに、みんなで手作りの秘密基地を作って、そこで、狭いながらも楽しい我が家と思って、他の人に迷惑かけないように騒ぐから~ん」
(騒ぐのか……)
(騒ぐのか……)
 フィルとエンリッジは顔を見合わせて囁《ささや》き合った。
「……なに、『秘密基地』だとぅ?」
 サイナスが興奮を抑えた様子で小さく呟いたのを……フィルとエンリッジは聞き逃さなかったが、軽く聞き流そうと思った。
「うふふ。良かったら、遊びに来てね~ん」
「え、マジか、行って良いのかっ?!」
 サイナスが思わず叫ぶと、オネエケンエンはにっこりと微笑んだ。
「もっちろんよ~ん。歓迎するわ~ん」
 そして。
 オネエケンエンは、サイナスが差し出したサバイバル手帳の一ページに、サラサラとこのあたりの周辺マップを描いてくれて。
 子分たちを引き連れて、みんなで名残惜しげに手を振り合いながら、さわやかに、気持ち良く、バンガロー『むささび』を去って行ったのだった。

 *

「うおおおおーーー!」
 ケンエンたちが森の奥に去って行き、三人の視界から完全に消えたところで、サイナスが待ってましたとばかりに雄叫びを上げた。
「な、何だよサイナスっ」
 サイナスはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら、サバイバル手帳の一ページを食い入るように見つめていた。フィルも横から覗き込んだ。
「えーと。このあたりのマップだよな。ここが……キャンプ場、の、この印がこのバンガロー? ……?! この温泉マーク! ま、まさか、もしかして、これが噂の、秘境の絶景露天温泉とやらだったり……?」
「ここか! ここにヤツらは秘密基地を作る気か! いーねーいーねー秘密基地には絶好の立地じゃんか。ここを選ぶとは、アイツ意外とセンスあるのな。やるな……。くぅー。秘密基地! 良い響きだ! なんか昔の血が騒ぐぜー!」
「……あれ。温泉じゃなくて、そっち?」
 サイナスのやる気スイッチは良くわかんねーな、と思いながら、フィルがふとエンリッジを見ると……。エンリッジも目を輝かせていた。
「確かに秘密基地! 俺も小さい頃よくやったなあ」
 エンリッジは、楽しそうに弾んだ声でサイナスに言った。
「お。わかってくれるか。このロマンを」
「ああ。ガッコの裏山にな。そこで良く授業サボって昼寝とかしてたなー。男子だけの秘密の基地のハズなのに、何故か女子にバレて踏み込まれるんだよなー」
「……おいっ。その女子って、まさかうちのリネじゃないだろうな」
「お、鋭いなー。もちろんリネッタもキリアも踏み込んできたぜ、俺達の基地に。でもなんかリネッタは楽しそうだったな。ほんとは俺達と一緒に遊びたかったんじゃねーのかな」
「うちのリネッタがお前らと遊びたいとかそれは絶対ナイナイ」
 サイナスはきっぱりと断言した。
「えー。何だかんだで、小さい頃は良く遊んだ仲だぜ? リネッタたちとは。ドロケイとか、ドッジボールとか……」
「お前にリネの小さい頃のことを語られるのは何かむかつくからやめろ」
「ま、まあまあ……」
 サイナスが静かに殺気オーラを放ち始めたので、フィルは慌てて中に割って入った。
「と、とにかく、これで一件落着、だな。二人とも、お疲れさん!」
 フィルが言うと、サイナスとエンリッジはフィルを見て、にやりと笑みを浮かべた。
「おー。フィルも、お疲れさん!(女装的な意味で)」
「フッフッフ。これでお仕事完了、このキャンプ場には平和が戻ったというわけか」
「元々の依頼の内容は『キャンプ場に棲み着いてしまった魔物たちの退治』だった気がするが……これで良いんだよな。報酬は貰えるんだよな?」
「追っ払ったんだから退治と一緒だろ。あいつらのことだ、秘密基地が出来上がったら、もう二度このキャンプ場には来ることはねーだろ」
「ま、依頼主が何か言ってきたら、サイナス先生から色々言ってもらって、しっかり三人分の報酬は受け取るかー」
「調子のいいこと言いやがって……エンリッジめ」
「……あのー。せっかく地図描いて貰ったんだし、帰りにどうしても俺、『秘境の絶景露天温泉』とやらに浸かりに行きたいんだが……」
「おー。あったり前だぜフィル、帰りに寄ってくぞー」
「おー」
「その後で、建設中(?)の秘密基地でも冷やかしに見に行くかー」
「おー」
 わいわいがやがや、と、男三人でしばらく楽しそうに盛り上がった後、フィルとサイナスとエンリッジは、仲良く鼻歌を歌いながら、自分たちのバンガロー『かけす』目指して歩き始めるのだった。

(完)
 
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